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103 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 11 18 気がつくと僕は、病院のベッドの上にいた。 僕が目を開けると同時に、パパとママが歓喜の声をあげる。 よかった、僕は生きている。 まだ脇腹に痛みは残るし体に力も入らないが、間違いなく生きている。 思えば社会人になってから、両親と会ったのは初めてかもしれない。 年末年始も盆休みも、接待やら学会やらで帰る事が出来なかったから。 半日両親とのんびりした時間を過ごした後、僕はナースコールを押し、やってきたナースに告げた。 「出来杉先生を呼んできてくれ。」 106 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 17 11 出来「野比君、調子はどうだい」 のび「まだ痛むけどこの通り、生きているよ。」 出来「本当に君を死なせなくてよかった。ほんというとかなり難しい手術だったんだ。」 のび「出来杉くん・・・・・・本当にありがとう。」 出来「僕は自分の使命を全うしたまでさ。しかし、本当に医者になってよかった。 大切な友人の命を救う事が出来たんだから、こんなに嬉しい事はないよ。」 のび「出来杉くん・・・」 出来「野比くん、また完治したら一緒に飲みにいこう。楽しみにしているよ。」 のび「ああ!!」 出来「そして2次会はもちろん・・・・・・ぐへへへへへへたまりまへんなぁ!! むひょひょひょひょひょひょひょ!!!!!!」 のび「・・・・・・」 出来「風俗!!セックス!!風俗!!セックス!!」 だめだこいつ、早くなんとかしないと。 108 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 21 07 出来「なぁ野比君・・・・おちついて聞いてくれるか?」 のび「なんだい?」 出来「君の病室にはテレビがないからきっとまだ知らないと思うんだが…落ち着いて聞いてほしい。」 のび「どうしたっていうんだよ?」 出来「しずかちゃんが・・・・・・・・死んだんだ。」 116 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 30 30 「20XX年6月11日深夜、都内の歓楽街で女性と男性を指したとして、源○○容疑者(61)が逮捕された。 被害者は容疑者の娘である風俗店勤務、源静香(25)と製薬会社勤務、野比のび太(25)。 源容疑者は静香さんの勤務する風俗店の前で待ち伏せし、持っていた刺身包丁で腹部を刺した後、 近くのタクシー乗り場でタクシー待ちをする野比さんを刺した模様。 源容疑者は「汚れた娘と、口の軽い不届き者を始末してやった。後悔はしていない。」と供述している。 被害者の二人は共に都内の病院に搬送され、野比さんは命に別状はないが、しずかさんは今朝未明亡くなった。」 はっきり覚えてはいないが、出来杉に連れられて行った医局のテレビで、 だいたいこんな内容のニュースを聞いた。 意識が遠のいていく感覚がした。 119 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 35 09 その後の僕は色んな取材を受けた。 しずかちゃんとの関係や過去の事など。マスコミ共は面白がって根掘り葉掘り聞いては脚色して報道する。 ただ、そんな事はどうでもいい。マスゴミ共が何を騒ぎ立てようが、僕は何も感じなかった。 最愛の人を失ったショックが、僕の感覚を麻痺させていった。 126 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 44 11 ~30年後~ ジャイ「いいこと思いついた。今日の特売品はジャンボフランクにしよう。」 のび「えええ~またかい兄貴!週に三回はソーセージセールをやっているじゃないか!」 ジャイ「今日のソーセージは一味違うんだ!見てくれ、こいつをどうおもう?」 のび「すごく・・・おおきいです。」 ジャイ「そうだろう!これは完売間違いなしだ!!」 55歳になった僕は、大型スーパーマーケットに成長した剛田商店の専務として働いている。 30歳でジャイ子と結婚した僕は、40歳で会社を退職し、家業を手伝う事にした。 今ではたくさんの子供に恵まれ、毎日を幸せに過ごしている。 20代の時は毎日が悲しくて地獄のようだったが、悲しみは時と共に薄れていくという事を身をもって実感した。 128 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 47 56 しかし、時折こんな事が頭をよぎる。 「ドラえもんが僕に見せた未来は一体何だったのだろう。」 しずかちゃんのいる未来。環境保護庁で働く未来。そしてドラえもんのいる未来。 ドラえもんとはそもそも、幼い事に見た幻だったのかもしれない。 そんな事すら考えた。 133 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 01 54 47 タイムマシンや不思議な道具なんて開発される気配すらない。 やはりドラえもんとの日々は僕の妄想だった。僕の考えはそう固まっていた。 そんな中、ある日の新聞でこんな見出しが目に入った。 「SONYが人口知能の開発に成功。ロボット工学に革命」 138 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 02 02 34 5年後、僕は60歳になった。もう立派なじいさんだ。 SONYの快挙によって、各メーカーはこぞって知能を持ったロボットの開発に着手。 完成させては発売を開始した。 僕も事あるごとに新作ロボットをチェックする中で、東芝のカタログに「猫型ロボット、近日発売予定!」という文字をみつけた。 僕は即座に予約をした。価格は僕がMR時代から貯めた全財産を持ってして買えるギリギリの価格。 それでも僕は迷わず購入を決意した。 ジャイ子は泣きながら僕にデンプシーロールをくらわせたし、子供は呆れて口もきいてくれなくなった。 しかし僕は後悔していない。 143 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 02 09 48 猫型ロボットの発売直前。 長女に子供が生まれた。小さい頃の僕にそっくりな男の子だ。 何の打ち合わせもしていないが、長女は孫に「セワシ」と名前をつけた。 セワシよ、ロボットの購入に全財産を使ってしまった僕は、君にお年玉をあげられないかもしれない。 あげれるとしたら多分50円くらいだ。ただ、そのロボットはきっと君にとって欠かせない存在になるだろう。 君が大きくなったら、きっと色んな不思議な道具やタイムマシンが発明されていると思う。 どうかその猫型のロボットを、過去へと送ってやってくれないか。 きっとそこには、馬鹿で怠け者でどうしうようもない少年がいる。 そいつはそのロボットによってまともな人間へと成長する。 そして、ひょっとするとそのロボットが過去を変える事によって、一人の女性が死ななくてすむかもしれない。 158 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/12(木) 02 18 06 過去をかえたところで、きっと僕のいるこの世界は変わらない。 ただもう一つの未来ができるというだけ。それはなんとなくわかる。 だって、今僕がいるこの時代はドラえもんに見せてもらったものとは大きく変わっているのだから。 でも、もうひとつ別の未来ができるとしたら、しずかちゃんが幸せで過ごしている未来がいい。 別に僕と結婚しなくてもいい。 ただお父さんを凶行に駆り立てるような事もなく、彼女が笑って過ごせるような未来がいいなぁ。 そんな事を考えていると、東芝から電話がかかってきた。 東「お客様、まことに申し訳ないのですが、注文されていたネコ型ロボットの納期が遅れてしまいます。」 のび「何故ですか?」 東「倉庫に置いているとネズミが耳をかじってしまったらしくて・・・耳が欠品してしまったんですよ。色も黄色から青に変色してしまって。」 のび「ふふふ・・・」 東「どうされましたか?」 のび「僕は耳のないデザインの方が好きだし、色も青が好みです。そうかそのまま売っていただけませんか。」 ~のび太君が社会人になったようです~ 完
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60歳になったら・・・ 定年退職の白木(慎吾)/後輩会社員(拓哉、吾郎、剛)/隣のテーブルの老人(中居) 60歳になったーら、友達100人できるかな♪ 2000.6.12
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42 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/31(木) 00 40 02 ID rpZeIlfO 空が青くて雲は白く、汗をかいた体に向かってときおり心地よい風が吹き、遠くの アスファルトの上に陽炎が立ちのぼる午後の2時。 僕はアパートの近くの本屋で涼みつつ、立ち読みをすることにした。 最初はいつもの習慣でライトノベルコーナーへ向かった。 目当ての本はコーナーの目立つ場所にあってすぐ見つかったけど、新巻はまだ 発売していないようで、見飽きた拍子だけが並んでいた。 僕が目当てにしているライトノベルはファンタジーものだ。 作者はライトノベルを発行しているわりには固い表現を好む人で、僕はときどき 読むのをためらうのだが、挿絵の好みのせいで上手いこと読まされてしまう。 そうは言っても、読み始めるとそのまま流れるように最後まで読んでしまうほどには 面白い本ではあるのだ。 僕が残念に感じるのは、プロローグの突飛さが僕の好みと合致していないという ことだろうか。 ライトノベルコーナーを離れて次に向かうのは、ホラー小説コーナー。 僕は別にホラー小説を好んで読んでいるわけではないのだが、好きな作家がいるのだ。 いや、その作家の選ぶテーマが好みである、と言いなおした方がいいかもしれない。 好きな作家がテーマにするのは、人間の嫉妬や執念といったものだ。 人間が執念をもつ対称が人であったり、金であったり、車や金品であったり、俗な欲求 であったりはするものの、読んでいる分には楽しめる。 時々胸の内側が痛むこともあるけど、ついつい読んでしまうのだ。 しかし、今日は新しい本を探しにきたわけではない。 僕が今参考にしたいテーマは、女性が男性へ向ける感情とそれが向かった先にあるもの。 もっと分かりやすく言えば、恋愛に関するものだ。 山川は言った。危機感を持ったほうがいい、と。 さつき姉の行動が、僕を想うあまりにしたことなのかはわからない。 なにせさつき姉の様子が昔と変わらなさ過ぎて、僕の心配が杞憂に過ぎないのではないか としか思えない。だが、現時点ではなんとも言えない。 山川がオレンジジュースを入れ替えていなければ、僕は今頃深い眠りに落ちていた。 その後で僕と山川が一体どうなっていたのか? 女性が恋人の男性を動けなくして、恋敵の女性を無防備な状態にさせた場合、一体なにを するのか?僕はそれが知りたかった。 棚から同じ作家の本を順に取り出して読み、参考にならないことを知って棚に戻す。 何度か繰り返すうちに目当ての作家の本は全てめくり終わったが、成果なし。 時刻は夕方の6時になっていた。 自動ドアを通り抜けると、夕方らしく気だるい雰囲気を纏わせた風がゆるく吹いてきた。 僕はさつき姉と顔を合わせた光景を想像し、なにを言われるのか予想した。 今までどこに行ってたんだ、と言われる可能性が高そうだ。 43 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/31(木) 00 41 15 ID rpZeIlfO 201号室の玄関を開けて部屋の中に入った僕を迎えてくれたのは、さつき姉の笑顔だった。 「おかえりなさい、惣一。待ってたのよ」 「……ただいま。ところで、待ってたって、なんで?」 「一緒に買い物に行きたかったから、惣一が帰ってくるまで待ってたのよ」 「ああ、そういうことか。ごめん、遅くなって」 「素直でよろしい」 意外なことに、どこに行っていたのか、とは聞かれなかった。 僕がさつき姉が眠っている間に外出していることについて何か言われるのではないかと 思っていたのだが、さつき姉はそんなことはどうでもいいような態度だった。 むしろ、僕と一緒に夕飯の買い物に行くことのほうが大事なようだった。 やはり、杞憂だったのだろうか? さつき姉が僕をどうにかする、というのは僕の妄想に過ぎなかったのか? それならば、山川の体が痺れたこととさつき姉が突然眠ったことの理由はなんだ? 「ほら、早く行きましょ。山川さんが持ってきたケーキだけじゃ、さすがにバランスが悪いわ。 さつきお姉ちゃんがしっかりとした料理を食べさせてあげる」 「……うん」 「元気ないわね。どうかした?」 僕は何でもないよ、というふうに首を振った。 夏の7時はまだ暗くなくて、日差しが強くない分散歩に適している時間帯だ。 歩道を歩いていて聞こえるせみの鳴き声と夕方の明るさの組み合わせは、どこか落ち着く。 今日の忙しい時間帯は終わりました。家に帰ってゆっくり過ごしましょう。 そんな空気をどこかから感じ取ってしまう。 僕はとても健やかな気分になっていた。 肌はさらさらで、地面につく足は軽くて、まるで扇風機に吹かれているように思えた。 前を向いている僕に向かって、さつき姉が声をかけてきた。 「惣一、なんだか嬉しそうな顔してるわよ」 「そんな顔してたかな」 「うん。まるで何も心配することなんかない、って安心してる人みたい」 「心配……」 「うん?」 「ううん。さつき姉の言うとおりだよ」 心配することなんかないのかもしれない。 僕のいる世界は、本当は混沌をはらんでいるくせにこれだけ涼しげだ。 耳が寂しくなるほどに静かで、せみは遠慮したように遠くで騒いでいる。 「ねえ、手を繋いで行かない?」 「うん……って、もう繋いでるじゃないか」 「事後承諾ってやつよ」 さつき姉の手の感触まで涼しくて、心地よかった。 44 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/31(木) 00 42 42 ID rpZeIlfO スーパーからの買い物を終えて、自宅に帰り着くころには僕の腹はかなり空いていた。 さつき姉は料理を手伝おうとする僕を居間に座らせると、1人で料理を始めた。 僕は窓を開けて、外の空気を取り込むことにした。 2階から見下ろす民家はどこも明かりが灯っていて、人が住んでいることを主張していた。 遠くで救急車の音が聞こえた。距離感を掴みにくいサイレンの音はアパートに近づいて くるかと思ったら、まったく見当違いの方向に音を向けた。 何の感慨もわかない、夜の光景。僕が望むもの。 僕はこんな平和な場所にいる自分が、本当はここではない場所にいるのではないかと思った。 平和すぎて、無駄なことを考えて、無為な時間を過ごしてしまうのは良くないことなのだろう。 でも、僕はここから動きたくなかった。動きたくなくなってしまった。 これが堕落なのかもしれない、と遠くの明かりを見ながら見当をつけた。 「お待たせ。チャーハンができたわよ」 さつき姉は両手にチャーハンの皿を持って、テーブルの上に置いた。 テーブル前に座ったさつき姉と向かい合うように、僕も座る。 「惣一。これ、いる?」 さつき姉は右手に粉の入ったビンを持って、僕に見せた。 たぶんコショウかなにかだろう。僕はさつき姉に向けて頷いた。 「ふふふ、じゃあ、さっそくふりかけましょうかね~」 そう言うと、さつき姉はチャーハンに満遍なくコショウをふりかけた。 僕は上下に動く白い腕をぼーっと眺めていたけど、その腕がいつまで経っても止まろうとしない ことに気づいて慌てて止めた。 「さつき姉、かけすぎだって!」 「あら、そう? まだ足りない気がするけど」 「あーあ、大丈夫かな、これ」 「平気平気。たぶんコショウとの比率はちょうどいいはずだから」 「……比率?」 「あ! ううん、なんでもないわよ。どうぞ、召し上がれ」 あやしくはあったけど、さつき姉の言動がおかしいのは以前からだった。 僕はスプーンを動かしてチャーハンを口に運んだ。 「……うん。あまり塩っ辛くはなってないね」 「でしょ。ねえ、もっとかけてみない?」 僕は否定の動作の代わりに、チャーハンを食べ続けることで応えた。 45 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/31(木) 00 43 52 ID rpZeIlfO 食後に本を読みながら考える。 一体、性欲というものはどこからやってくるのだろうか、と。 腹が減った場合には、空腹であることを脳が理解することで食欲が湧いてくる。 眠たくなる理由はよくわからないけど、おそらく脳に睡魔か何かが棲みついているのだろう。 時と場合によるだろうけど、食欲も睡眠欲も性質の悪いものではない。 1番性質の悪いのは、性欲というやつだ。 女の場合はわからないけど、男はときどき理由も無くセックスがしたくなる。 しかも性欲を喚起されるきっかけが、女性(一部例外あり)の体に接したり裸体を想像する、 という簡単なものだったりする。 根源的な欲求の中にエロスというものが存在しなかったら文明はここまで発達はしなかった。 性欲とは人間に必要不可欠なものだと思う。 だが、世界に存在するあらゆるエロスに対して、理性を強固にする役目を果たすものは あまりに少なすぎる気がする。 完全に性欲が無くなってほしいと考えたことはないけど、体のツボを刺激しなければ性欲が 湧いてこないように身体構造が変わってほしいと考えたことはある。 そして、たった今もそんな起こりもしない幻想を見る自分がいる。 僕は部屋に置いてある文庫本を読んでいる。 現代日本文学を支える人の書いた小説である。が、たった数行読むだけで物語のあらすじを 忘れてしまう今の僕にとっては、有名であろうとなかろうと同じことだ。 さつき姉は僕と同じように本を読んでいるけど、ときおり僕の顔をちらちらと見てくる。 見られるたびに僕は落ち着かない気分にさせられる。 「惣一」 「……なに」 「ミニスカートとロングスカート、どっちが好き?」 「わからない」 「じゃあ、黒い下着とフリルの付いたピンクの下着、どっちが好き?」 「わからない」 「それじゃあ――」 さつき姉が言葉を紡ぐ前に、僕は立ち上がった。 本をカラーボックスに戻す。表紙が折れ曲がって入ってしまった。 このままでは、今度こそさつき姉を犯してしまう。 どこか、1人になれる場所を探してそこで解消しよう。 惨めだけど、もうそれしか方法が無い。 47 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/31(木) 00 45 56 ID rpZeIlfO 僕が無言のまま玄関へ向かっていると、さつき姉が後ろについてきた。 僕は、なるべく突き放すように言うことにした。 「しばらく散歩に行ってくるから、先に寝てて」 「ちょっと、どこに行くつもり?」 「どこでもいいだろ」 さつき姉のいない場所なら、どこでもいい。 靴を履いて玄関を開けようとしたら、さつき姉が僕の腕を掴んで、胸に抱いた。 腕を柔らかい感触によって刺激される。もどかしすぎて喉が詰まる。 「1人では行かせないわ。惣一は、私と一緒じゃなきゃどこにも行っちゃいけないのよ」 「そんなこと、誰が決めたんだよ」 「私。だいたい、1人でどこかに行ったら変な女が近寄ってくるかもしれないわよ」 「むしろ、その方が好都合だ」 「は? なに馬鹿なこと言ってるのよ。こんな時間に男に寄っていく女が なにを目的にしているか、知ってるの?」 「知ってる」 「それなら、なんで――」 しつこい。もうこうなったら、体でわからせるしかない。 さつき姉の顎を右手で上げて、唇を見る。小ぶりな唇。とても柔らかそうな唇。 とても美味そうだった。味わってみたくなった。どうしようもなく、欲しくなってしまった。 僕は、強引にさつき姉の唇にキスをした。 さつき姉はキスされた途端、びくりと動いた。 同時に唇も動き、僕の唇も形を変えた。 腰に両手を回し、強く抱きしめて、さらに強く唇を押し付ける。 「ん……んぁ……そうい、ちぃ…………めぇ……」 そう言いながらも、さつき姉は抵抗しようとはしない。 さつき姉のシャツの上から、背中を撫でる。 腰から上に這わせていくと、抱きしめている体がふるふると動く。 シャツの下に手を入れて、くぼんだ背筋に指先を当ててくすぐると、 さつき姉は身をよじらせた。 固い線のようなものが指に当たった。ブラジャーのホックだ。 僕はそれを外そうとすると同時に、さつき姉の唇を舐めて――――そこで止まった。 48 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/31(木) 00 47 15 ID rpZeIlfO 目前にあるさつき姉の両目から、涙が流れていた。 閉じられた目は僕の方を見ていない。だけどそれは僕の一方的な蹂躙に 耐えるためにしているだけで。 僕に、応えているわけではない。 腰から手を離すと、さつき姉はその場にへたりこんだ。 そして、何故か笑い出した。 「う、ふふふ、ふふふふふふふふ。 キス、したわね。私に、ようやく、キスを……うふふふふふふふふぅ」 僕は声をだせなかった。 自分がいくら冷静ではなかったとしても、さつき姉にやってしまったことはどうしようもない。 取り返しのつかないことをしてしまった。さつき姉を、傷つけた。 ずっと昔から友達だったのに。綺麗なままでいてほしかったのに。 「あ、ああ、あ……ご、ごめん……」 「謝らなくてもいいのよ。さつきお姉ちゃんは、あなたのことずっと見てたから。 惣一が私のこと、ずっとそういう目で見てたことも、知ってるんだから」 「こ、これは……僕は、違っ、て……」 「いいのよ。さあ、私を思うままにしてちょうだい」 「っ! ごめんっ、さつき姉!!!」 「あ! ちょっと!」 僕は勢いよく扉を開けて、外に飛び出した。 49 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/31(木) 00 48 32 ID rpZeIlfO なんで、どうしてさつき姉を傷つけるようなことを、僕は……。 くそっ!くそっ!くそっ!僕の馬鹿!阿呆!変態! もう、さつき姉は僕と会ってくれない。間違いなく。 もうすぐ、前みたいに仲の良い友達になれると思ったのに。 階段を3段飛ばしで駆け下りる。 夜の暗さのせいで、地面に足をついたときバランスを崩してしまった。 早く走りたい。走って忘れたい。何も考えたくない。 最低だ。僕は。 震えて上手く動かない足に力を込めて走り出そうとしたら、何かが右の地面に着地する音が聞こえた。 何だ?同じアパートの住民か? と思い、音がした方を振り向いたら。 「惣一……あそこまでしておいて、逃げるってことは、ないんじゃない? もしかして――私に、恥をかかせるつもり?」 さつき姉だ。地面に手をついて、しゃがんだまま僕を睨んでいる。 2階を見る。階段の手すりは目線よりもずっと上にある。あそこから飛び降りたんだ。 そこまで、僕を恨んでいるのか――。 「早く部屋に戻りましょう。さつきお姉ちゃんが、たっぷりお仕置きしてあげるから」 「あ、あああ……ごめんなさい! ごめんなさい!」 僕はそう言うと、さつき姉に背中を向けて、 「っへ? あ、ちょっと待ちなさい!」 さつき姉と、自分のやったことへの後悔から逃げ出すように、走り出した。
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494 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/23(水) 23 24 25 ID hSICfvPU *** 僕の知り合いに、近所に住む仲のいい年上の女の子がいた。 過去形にすべきではないのだけど、もう会おうとは思わないから過去形にすべきだろう。 彼女の名前は橋口さつきといって、僕よりも3つ早く生まれていた。 僕と、僕の同年代の友達はさつき姉、と彼女のことを呼んでいた。 さつき姉と僕は、昔からとても仲が良かった。 僕とさつき姉の家は、小さい子供が1人で歩いて行っても迷わずにたどり着けるくらいの 距離しか離れていなかった。 だから、自然にお互いの家に行き来して遊ぶようになった。 さつき姉が言うには、昔はよく僕の方から訪ねていっていたらしい。 僕はよく覚えていないのだけど、たぶん真実なんだろう。 さつき姉は僕のことで嘘を吐くような人ではなかったから。 小学校に通っていた頃は、当然のようにお互い手を繋いで登校した。 3年生の頃までは手を繋いで歩くことに抵抗が無かったけど、いつからか僕は クラスの友達にからかわれるようになって、さつき姉と手を繋がなくなった。 さつき姉は僕と無理矢理手を繋ごうとしてきたけど、手を繋ぐことを恥ずかしく 思っていた僕は、つい走って逃げてしまった。 だけど、僕とさつき姉の仲が悪くなることはなかった。 学校が休みの日と、学校からの帰り道ではよく一緒に遊んでいた。 僕が持っている小さい頃の楽しい記憶のほとんどには、さつき姉が一緒だった。 495 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/23(水) 23 27 05 ID hSICfvPU よくやった遊びは、おいかけっこだった。 さつき姉が鬼で、僕が逃げる役。 僕の家の中と庭、さつき姉の(僕の家より大きい)家の中と広くて綺麗な庭、 学校から自宅までの帰り道、僕の家の裏にある雑木林の中、子供の足で入り 込めそうな場所は、ほぼ全てが追いかけっこの舞台になった。 おいかけっこを始める前に、2人のどちらが勝ったらなにをする、という罰ゲーム を毎回設定した。 罰ゲームの内容はよく覚えていない。 よく覚えていないということは、きっと身の危険をおびやかすほどのものは罰ゲームに 設定していなかったということだろう。 もし危険なものであったら、僕の体にはもっと傷の跡がついているはずだ。 僕と比べて、さつき姉の走りは圧倒的に上だった。 僕がさつき姉を避け始めたのは、高校1年生のころだった。 高校1年生の冬、僕はクラスメイトの女の子から告白されて付き合いだした。 さつき姉は大学に通っていたけど、平日は相変わらず僕と一緒にいたし、 休日には僕の家へ遊びに来て部屋に居座った。 クラスメイトの女の子は、家へ来るたびに僕の部屋に座っているさつき姉を目にした。 僕に出来た初めての恋人は、ひと月もしないうちに自然消滅した。 ちなみに、初めての恋人は僕が中学校の頃から好きで、彼女を目当てに一緒の 高校へ通うほど、強く想っていた女の子だった。 496 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/23(水) 23 29 53 ID hSICfvPU 高校2年に進級した頃には、僕はさつき姉を無視するようになった。 親の手前どうしても話さなければいけないときもあったけど、そんなときは 居心地の悪さを感じながらも、さつき姉とにこやかに会話した。 高校3年生になってからは、受験勉強に忙しいという理由でさつき姉から逃げ回った。 それでも僕の部屋のドアをノックするさつき姉に対抗して、僕は塾という安全な 逃げ場へと避難した。 勉強の甲斐あって、僕は実家から遠く離れた大学の受験に合格した。 1人暮らしを始めるアパートに引っ越す前日、僕はさつき姉と久しぶりに街へくりだした。 さつき姉は、お店に入ったときは突き抜けるほど晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、 公園のベンチで会話したときには自身の胸のうちを明かしながら涙を落とした。 僕の人生で、寂しかったという単語を何度も繰り返し使われたのは、その時が初めてだった。 翌日、僕は朝早くからバスと電車を乗り継いで新生活の舞台となる町へ向かった。 本当は、前日にさつき姉と一緒に遊びにでかける約束を結んでいた(約束しなければ帰して もらえなかった)のだが、僕は約束とため息を一緒にして、見知らぬ風景の空気へと吐き出した。 アパートの住所は、さつき姉には教えなかった。 両親にも、住所のことはさつき姉には教えないでくれ、と頼んでおいた。 僕はさつき姉を忘れたかった。 初恋の相手だった人に対して、これ以上冷たくあたりたくなかったからだ。 そうして新しい生活が始まり、大学生活と1人暮らしの生活に慣れだしてそろそろアルバイトを 始めようかと考えているうちに、大学は夏季休暇へと移行していた。 497 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/23(水) 23 31 23 ID hSICfvPU *** コンビニで求人情報誌と一緒に、缶コーヒーを購入する。 自動ドアを通り抜けて外へ出ると、眩しい日差しと体にまとわりついてくる熱気が 額にじっとりとした汗を浮かび上がらせた。 コンビニから自宅へ向かう途中には、小学校のグラウンドと同じぐらいの広さの公園がある。 公園を取り囲むようにして緑の葉っぱを広げた木が立ち並び、公園の中心にある大きな木の周り には芝生が広がっていて、芝生の上には犬と散歩をする人や色つきのボールを蹴る子供達がいた。 公園の入り口近くにあるベンチに腰を下ろす。 後ろに生えている木は太陽の光を上手に遮り、僕とベンチの周囲を暗くして、同時に地面から 立ち上る熱気を抑えてくれた。 歩いているときとは違う風の心地よさを味わってから、まだ冷たい缶コーヒーを開けて口にする。 微糖のコーヒーは乾いた喉にひっかかることなく流れていった。 求人情報誌には、僕の住むアパートから歩いていっていける距離で働ける場所があった。 めぼしい条件のページに折り目をつけながらコーヒーを飲んでいると、携帯電話に着信があった。 見知らぬ番号ではあったが、090から始まる番号だったので通話ボタンを押して電話に出る。 「もしもし」 と言っても、相手からの返事がなかった。 一呼吸してから同じことを言おうとしたら、ツーツー、と音が聞こえてきた。 間違い電話だったのだろう。僕は携帯電話をジーンズのポケットに入れて、コーヒーを飲み干した。 498 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/23(水) 23 35 41 ID hSICfvPU 僕が住んでいるアパートは、公園から歩いて10分ほどの場所にある。 10分とはいえ、今日の気温はこの夏の最高気温を記録しようかというほど高く、 Tシャツと下着は汗に濡れて、手に持ったハンカチは汗で重くなってしまっていた。 僕の住む201号室は2階にあり、当然のように階段が立ちはだかっていた。 階段を4つ登るごとに、僕は1回ずつハンカチで額の汗を拭う。 階段を登る間に、額を4回拭った。2階に着いてから、もう一度額を拭う。 201号室という名前のくせに、階段を登ってすぐの位置には203号室があり、 突き当たりまで行かないと僕の住む201号室はなかった。 僕が向かう201号室の前には、女性が立っていた。 女性は長い髪の上に白い帽子を被り、白いワンピースと白い靴を身に着けていた。 肌の色も白で、違う色をしている部分といえばつややかな黒髪と薄紅の唇と、 ほっそりとした指に包み込まれた赤い携帯電話だけだった。 女性は親指を動かしてから、携帯電話を持ちかえると耳につけた。 途端、僕のポケットに入っている携帯電話が振動した。 携帯電話を開いて画面を見ると、公園で着信のあった番号と同じ番号が表示されていた。 呼吸を止めてからその場で立ち止まり、電話に応対する。 「……もしもし」 なんとなく、慎重に声を出してしまった。 僕が立ち尽くしていると、携帯電話の音声と共に女性らしき肉声が耳に届いた。 「ふふ、やぁっぱり、惣一の番号だった!」 目の前にいる女性が僕の方を向いて、大声を出した。 ちなみに惣一というのは、僕の名前だ。北河惣一、それが僕のフルネームだ。 僕の名前を知っているのは、この町では大学の友達だけだが、目の前にいる女性は 大学でできた友達のいずれでもない。 当然だろう。だって彼女は。 「久しぶりね、惣一。元気そうじゃない。 てっきり私がいなくて寂しい生活を送っているんじゃないかと思ってたんだけど」 懐かしい笑顔と、聞きなれた声と、変わらぬ容姿。 携帯電話を切らずに、僕に語りかけてくる。 女性の空いた手には、携帯電話会社から送られてくる料金案内の封筒が握られている。 「惣一のところに、遊びにきちゃった!」 さつき姉――本名、橋口さつきが、1人暮らしを送る僕のところにやってきた。 -------
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Lv.50になったら カンストまで行かなくてもLv.50になるとハードのIDに行けるようになります。 その他にもできるようになることがたくさんあります。 ギルメンといっしょに遊ぼうね! 装備を整える 最初のハードID「火のドラゴン」と「迷宮の集会堂」のアイテムスコアが1800なので、装備をそろえる必要があります。 買い物をしよう! ハードへ行かずノーマルのIDで青装備を揃えてもいいですが、IDは週の報酬獲得回数の上限が決まっているので推奨は装備を買っちゃうことです。 BM(ブラックマーケット)を開く(右下のアイコン)。 分類、職業、レベル、等級(エリート以上)を選択。 アイテムスコアが1800を超えれば何でもいいので気に入った装備を買う。 お金はIDに行けばすぐに貯まるので使い切っても問題ありません。 もちろん強制ではないので、ノーマルIDからコツコツ青装備を集めてもOK! 強化をしよう! レベルアップ報酬でもらえる10段階上級エンチャント呪文書を、買った武器に使います。 エンチャント(強化)することでアイテムスコアも大幅に上がります。 ペットを捕まえる Lv.50になるとペットを連れて歩けるようになります。 ペットはフィールドやIDにも付いてきて、アイテムを拾ったり自動でポーションを使用してくれるのでとても助かる存在です。 IDに挑戦する前に是非つかまえてから行こう! 右下のアイコンの『ガイド』から、ペットの捕まえ方や必要なアイテムの入手方法などを教えてもらえるのでスライムを捕まえちゃおう。 スカイフォートレスのチュートリアルをする Lv.50になると艦船スカイフォートレスのクエスト(デイリー、ウィークリー)が受けられるようになります。 経験値の他にもメリットが多く、クエストをして損はないので最初のチュートリアルは終わらせておきましょう。
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586 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/27(日) 12 23 51 ID nfd27eRQ さつき姉が僕の住むアパートの一室にやってきて一晩が過ぎた、二日目。 今日は朝から雨が降っていた。 朝に目が覚めたときカーテンのすき間から空を見ると、青い色が見えなかった。 部屋の空気はわずかに湿っている気がした。 雨は強く降っているわけではなく、雨雲から命令されて嫌々降っているように思えた。 風は弱く、空を覆う灰色の雲は長く居座るつもりのようだった。 実際、(僕の勘よりはあてになる)天気予報も僕の感じたままのことを言っていた。 さつき姉は朝に弱い。 その事実を知ったのは僕がまだ小学校に通っていたころのことだ。 登校するときは僕がいつもさつき姉の家に行った。 おばさんに挨拶をしてから、さつき姉が家から出てくるまで待つ。 玄関を開けるときのさつき姉は、いつも目を瞑っていた。 僕の記憶の中に、さつき姉が朝から活発的になっている様子は存在しない。 いつもさつき姉はふらふら歩いた。僕はさつき姉に声をかけながら歩いた。 学校に着く数分前になるころさつき姉の意識はようやく覚醒しはじめ、隣を歩く 僕を確認すると手を握ろうとしてくる。 僕は手を握られないようにランドセルに手をかけたり、走って逃げたりする。 その繰り返しが、小学生のころの僕の日常だった。 さつき姉は相変わらず朝に弱いようだった。 時刻はすでに7時数分前をさしているから、僕の目ははっきりと覚めている。 だというのに横になったままのさつき姉は身じろぎ1つしない。 昨晩さつき姉にからかわれた仕返しに起こしてやろうかとも思ったけど、 やめておくことにした。 特に理由はない。しいて言うならば、早く顔を洗いたかったからだろうか。 洗面所に行き、顔を濡らして髭を剃り、顔を水ですすぐ。 蛇口から流れてくる8月の水は、目を覚ましてくれるほど冷えてはいなかったけど、 変わりなく水としての役目を全うしてくれた。 さっぱりとした思考で考える。 今日は雨が降っているけど、さつき姉はどうするんだろう。 本でも読みながらじっとしてくれたら嬉しいんだけど。 587 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/27(日) 12 25 18 ID nfd27eRQ 焼いた食パンを台所で食べ終わった頃、さつき姉がやってきた。 「惣一、おはよ」 「おはよう」 「ね、今何時?」 台所には時計を置いていない。 全く必要がないというわけではなく、単に狭い部屋に数多くの時計は必要とされないからだ。 居間の壁にかけてある時計を見て、両手で指を8本立ててさつき姉に見せる。 「そっか。よかった、早起きして。今日はいろいろやりたいことがあるから」 さつき姉はそこまで言うと、洗面所で蛇口をひねった。 鏡に向かって顔を向けているが、2つのまぶたは閉じられたままだ。 あの様子ではまだ意識が覚醒していないと思われる。 僕は居間に敷かれたままの布団を畳むと、続いてテーブルを定位置に置いた。 買い物に行こうとさつき姉が言い出したのは、パンを食べ終えたあとだった。 実を言うとそれまでの間にさつき姉は一度倒れた。 僕が駆け寄ってさつき姉の体を抱き起こすと、小さな寝息が聞こえてきた。 寝ていた。大きく口を開けながら。 口は開けたままなのに、鼻で呼吸をしていた。 僕は肩から力を抜くと、さつき姉を仰向けにして頭の下に枕を敷いた。 さつき姉は僕の左で、雨に濡れたコンクリートの地面を踏みしめながら歩いている。 「もう! 惣一が起こしてくれなかったのが悪いんだからね! 今日は久しぶりに一緒にでかけようと思っていたのに!」 だったら早めに言っておいてほしかった。 さつき姉がしっかりと伝えてくれていれば僕は頬をつねってでも起こした。 いや、それぐらいでは起きないか。 さつき姉は一度眠ってしまうと、死んだように動かなくなるのだ。 以前さつき姉が夏休みの宿題を片付けるために徹夜をしたことがあった。 徹夜した次の日には、丸一日ベッドの上で眠りこけていた。 僕は、その時のことをよく覚えている。 なにせ、丸一日中僕の手を握ったまま眠っていたのだから。 588 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/27(日) 12 27 12 ID nfd27eRQ アパートを出て、50分ほどバスに乗って、近くにあるコンビニで弁当を買い、 案内板を頼りにして海水浴場にやってきた。 さつき姉の予定では、今日は海水浴場にくるつもりだったらしい。 雨が降ったから予定を中止するかと思いきや、さつき姉はこうやって海を見に来ている。 さつき姉は傘を持ちながら、人の居ない砂浜を見下ろしている。 ため息をひとつ吐くと、まぶたを少し下ろして憂いの目をつくった。 「残念ね。せっかく惣一と一緒に海に来たのに、これじゃ面白さ半減よ」 「半減しただけ?」 「そ。水着を買って、泳ぎもしないのに海水浴場にやって来て着替えて、 貸し出されたパラソルの下でのんびりとして、というのをやってみたかったから」 疑問に思った。 ただ海にくるだけならいつでもできるだろうし、なにも今日である必要は無い。 ぼんやりするだけなら、僕は居てもいなくても同じじゃないか。 僕が思ったことを口にすると、さつき姉はうーん、と呻いた。 「違うのよ。惣一と来るっていうことに意味があるの」 「僕と?」 「うん。私が惣一の部屋に泊まっているうちにやっておきたかったから。 こんなところ、1人でくるものじゃないわよ。基本的にはね。 男の人はナンパをするために1人で来たとしてもおかしくないけど、 女の人が1人で海水浴場に来てぼんやりとしてたらなんだか変じゃない」 僕は目を動かして灰色の空を見たあと、さつき姉に対して頷いた。 頷いたのを見て、さつき姉は思い出したように声を出した。 「ねえ、もしかして惣一もナンパとか、したりするの?」 「なんでそう思うのさ」 「いいから質問に答えなさい」 さつき姉は少しだけ眉根を寄せた。 別に隠すようなことはないし、そもそも隠すものが無いので正直に答える。 「ナンパはしない」 「本当に?」 「しようと思ったことはあるよ。……ちょっと違うか。 僕の想像の中にいる僕が、ナンパしようかどうか考えたことがある」 「……よかった。駄目よ、ナンパなんかしちゃ。 遊びに行きたいんなら私を誘ったらいいわ。私はご飯は割り勘にする女だから。 今日みたいにね」 さつき姉は時刻を確認すると、屋根のあるベンチのところへ向かった。 僕もベンチに座り自分の弁当を取り出して、次にさつき姉の弁当を差し出した。 さつき姉の後ろにある雨の降る様子を見ていると、さつき姉に問いかけられた。 「想像の中の僕、とかいう言葉をよく使ったりするの?」 「普段は使わないよ。今日はさつき姉が二度寝した横で小説を読んでたから、 なんとなく言ってみたくなっただけ」 ふーん、と呻いてから、さつき姉は食事を再開した。 589 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/27(日) 12 29 15 ID nfd27eRQ 海水浴場から離れてバス停に向かう途中、お土産屋に立ち寄った。 遠く離れた街までやってきたから、家族や友達に買うためのお土産を選ぶのだろうと 僕は思ったのだが、さつき姉はどうやら違うことを目的にしているらしかった。 さつき姉はキーホルダーが大量に吊るしてある回転式ディスプレイを、何度も熱心に 回しながら難しい顔で睨み付けている。 お土産屋の中は人がいなくて閑散としていた。 店内の広さは僕の部屋をひとまわり大きくしたくらいのもので、壁にまで商品が置かれていた。 外観はお土産屋の看板がなければ素通りしてしまうほどに地味で、あまり繁盛していない のではないかと僕は思った。 今日は、雨が降っているせいで誰も店内に入ってこないどころか、路地を歩いている人すらいなかった。 「惣一、これ」 さつき姉の声に振り向くと、目の前に目玉が現れた。 形容しようもなく、目玉そのものだった。本物ではないが。 目の前にかざされた目玉のキーホルダーは直径が1cm少々の大きさでとても軽く、 銀色のリングには200円と書かれたシールが貼ってあった。 「それ、買いなさい」 「なんで? キーホルダーなら間に合ってるんだけど」 「いいから買いなさい」 同じやり取りを繰り返しても、さつき姉は強硬な姿勢を崩さない。 仕方なくレジに行って会計を済ませると、さつき姉も同じものを購入した。 さつき姉は右手で目玉のキーホルダーをぶら下げ僕に差しだし、左手のひらも差し出した。 「交換しましょ、このキーホルダー」 「……なんで? 同じものじゃないか」 「別々に買った、って点では別物でしょ。 私は惣一のものを持つから、惣一は私のを持ってちょうだい」 買わされた理由もわからないうえに、交換する意味も掴めない。 とはいえ、断る理由はない。 僕はキーホルダーをさつき姉に渡して、さつき姉のキーホルダーを受け取った。 「今日から私が居なくて寂しくなったときは、それを見て紛らわしなさい。 私も寂しくなったときは同じことをするから」 2人でお土産屋の外に出ると、空の色はたいして変わっていなかったものの、雨はまったく 降っていなかった。 バス停に着いて到着したバスに乗り、降りてから自宅に帰るまでの間、僕は右のポケットに 入った目玉のキーホルダーを適当にいじった。 何度触っても変わりなく、プラスチックの滑らかさしか感じられなかった。 590 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/27(日) 12 31 06 ID nfd27eRQ 部屋に戻ってきてから、僕は携帯電話を置きっぱなしにしていたことに気づいた。 着信を確認すると、大学の友人の1人から何度か電話がかかってきていた。 かかってきた番号に、折り返し電話をかける。 4コール目で繋がった。 『もしもし? 北河君?』 「うん」 『どうして出なかったの? どこかに行ってた?」 「まあ、ちょっと散歩にね」 『ふーーん』 部屋の時計で時刻を確認すると、長針は4時を差していた。 時刻を確認できるだけの間隔を空けて、友人の声が聞こえた。 『聞いてくれますか、北河君』 「それって、聞いてくれることを前提にしての質問だよね」 『実は私、山川は本日朝7時に目を覚ましたところ、隣に彼氏が寝ていないことに気づきました。 あれ? どこにいっちゃったの? と口には出さず彼氏を探して部屋を右往左往する私。 トイレ、浴室、冷蔵庫の中、ゴミ箱の中を覗き、首を傾げながらテーブルを見ると!』 「見ると?」 『合鍵は返しておく 俺たちはこれで終わりにしよう。 と書かれたメモを発見しました』 僕はほう、と言いそうになった自分を抑えて、次の言葉を待った。 『というわけで、明日の夏祭りアンド花火大会は北河君と行くことが決定されました。がちゃり』 「がちゃり、じゃないよ。なんで勝手にそんなことを決めてるんだ」 『いいから付き合いなさい! これは決定事項です!』 「……まあ、別にいいけどさ」 『よろしい。では明日の朝北河君の自宅へ迎えに行きます。シャワーを浴びて待っていてください』 友人の山川はこういう冗談をしれっと口にする。 性質の悪さが子供っぽくて面白いから、僕にとっては気の合う友人の1人だ。 「わかった。じゃ、明日会おう」 と言ってから、僕は通話を終了した。 携帯電話をテーブルの上に置いてから水でも飲もうか、と後ろを振り向くとさつき姉が 真後ろに立っていることに気づいた。 「惣一、今のは誰? ずいぶん楽しそうだったけど」 言葉の中に隠しきれない不満の色が混ざっている。やけに機嫌が悪そうだ。 「大学の友達」 「女の子でしょ? 女の子よね? 女の子なんでしょう?」 「う……ん。そうだけど」 なぜ言葉を繰り返したのはわからないが、喋るごとに目と眉がつりあがるさまから察するに、 さっきの電話の内容が面白くないものだったらしい。 山川の声はよく通るから、真後ろに立っているさつき姉にも聞こえていたはずだ。 さつき姉は不機嫌から微笑へと表情を変化させた。 「そうなんだぁ。女の子の友だちねぇ」 頷く動作を繰り返しながら、さつき姉は台所へ向かい夕食の準備を始めた。 包丁とまな板のぶつかる音が、昨日とは違い甲高く響いた。
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95 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 13 49 08 ID biq4Qk+P 朝の9時。山川の自宅のドアの前。 音符のマークが書かれているチャイムを押して、頭の中で3秒数える。 続いて3回、金属製のドアをノックする。反応はない。 だが、山川の自宅に来る前に連絡をしているから、起きていることは間違いない。 間もなくでてくるだろうと見当をつけて、ドアの前で待つことにする。 山川の住むアパートは築5年ほどの建物で、僕の住むアパートよりもだいぶ綺麗だ。 その分家賃は高いのだろうけど、娘を持つ親としてはそれなりにいいところに 住ませたいのかもしれない。 廊下の手すりに肘をついて、空を見上げる。 寂しそうな空だ、と思った。 空には青と、馬鹿みたいに白い雲が広がっている。 鳥が飛んでいる。時々現れては、円を描いて飛び、どこかへ行く。 空と地上を隔てるものは人工的な建物だけだった。 ここが田舎の村だったらまた違う景色が見られるのだろう、と意味も無く考えた。 昔――小学生のころだったか、詩を書いたことがある。 空を題にした詩だった気がする。いや、詩というよりポエムだったかもしれない。 まあ、どちらでもいいんだけど。 散歩しているときに見上げた空の青さに、僕は疑問を持った。 思いをそのまま文章にして、先生に見せた。 先生の感想はあたりさわりのないものだった気がする。 空がなぜ青いのか。それは、空の向こうにあるものの色が濃い青だから。 だんだん白やその他の色が交じり合っていき、地上から見たときにはすっかり薄くなった 青が見られる、というのが詩の内容だった。 今の僕が書いたなら、内容は違うものになる。 地上から見た空が青いなら、空の向こうから見た地上はどう見えるのだろう。 衛星からの写真では、地上の様子がそのまま映されている。 では、空はどこにあるのだろうか。 きっと空は存在していない。空の青は人の目が見せる錯覚。 とでも書くのだろう。 ここまで感傷的な気分になっているのは、失恋のショックから立ち直れていないからだ。 一晩寝たらまともになるかと思っていたら、むしろ逆。さらに憂鬱な気分になってしまった。 本当に辛い食べ物はあとになって辛さを知覚できるというが、失恋にも同じものが あるのだろうか。 「そんなわけ、ないか」 96 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 13 50 24 ID biq4Qk+P 「おはよう、北河君!」 後ろから山川の声がした。振り向いて挨拶を返す。 「おはよう、山川」 「……うわ、ひどい顔だね」 「失敬だな、君は」 どれだけひどい顔をしているのだろうか。 顔に手を当ててみる。特に変わった様子はないと思うのだが。 「今の北河君の顔を、喩えてみようか?」 「必要ないよ」 「まあ、そう言わずに。えっとね、念願の車を買えた男、が」 「が?」 「目の前で突然爆発した愛車を見てしまったときの顔、だね」 「それはひどいな」 「ちなみに、爆発はテロリストの仕業です。しかも生き別れの弟」 「そこまで詳しく設定を作らなくても良いから」 「全てを知った男は車の仇を取るために、生き別れの弟と戦う決意をするのです」 「そっか……さよなら」 背中を向けて、立ち去ることにする。 山川なりに元気付けているというのはわかるが、付き合う気分じゃない。 数歩進んだあたりで、山川が僕の肩を掴んだ。 「ま、ま。そう不機嫌にならずに、部屋に上がっていきなよ」 「……いや、もういいから」 「お姉さんが体と甘い言葉で慰めてあげるから」 「僕と君は同い年だし、慰めもいらない」 「そういや、そうか。じゃあ、お酒の力を借りるとしよう。 お酒を浴びるほど飲めばきっとエネルギーが充填されるよ」 「お酒? また?」 「そ」 山川が言うには、部屋に大量のビールと日本酒、焼酎まであるらしい。 僕はいろいろ考えた末、山川の提案をのむことにした。 僕はアルコールが好きじゃない。缶ビール一本にしても明らかに単価が高いし、 たいして美味いと感じることもないからだ。経済的じゃないし、味も悪い。 山川と飲んだときは同席した以上仕方ない、という感情が働いていたから飲んだ。 友人と飲むときも軽く飲む程度で、飲み屋のトイレや床に吐いてしまうほど飲んだり、 二日酔いになるほどコップを忙しく動かしたりしない。 けれど、今日は飲みたい気分だった。 僕は山川に手を引かれて、部屋の中へ入ることにした。 山川の部屋の中は、意外なほど綺麗で、まるで雑草を刈った後のようにさっぱりとしていた。 97 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 13 52 35 ID biq4Qk+P 僕がビールを何本飲んだか忘れるほど飲んで、山川がビールを2本と焼酎一升と 日本酒を半分ほど片付けた時点で夕方の7時になり、僕は家に帰ることにした。 酔っているくせに正気を保とうとして目の前の光景をじっと見つめるのは僕の癖だ。 僕の目が狂っているのでなければ、山川がタクシーを止めようとして道路に寝転んだ という光景は嘘ではないことになる。 大の字になって寝転んだ山川を僕は当然起こした。 車の通りが少ない場所でやったからいいものの、どこでも人の目はあるもので、 やはり僕と山川は奇異の目で見られることになった。 電信柱に寄りかかりながらタクシーが来るのを待ち、運よく目の前で止まったタクシーに 乗り込んで僕はアパートに帰ることにした。 しかし、なぜか山川までもが僕の家についてきた。 山川がついてきていることに気づいたのは部屋の鍵を開けて、中に入った時点でだったが。 山川は僕の部屋に入ると同時に、トイレへ向かった。 僕はその間に水を一杯飲み干した。 コップを2つ用意してインスタントコーヒーの粉を入れる。 空になっていた電気ポッドに水を入れて沸騰するまで待ち、電子音が鳴ってから コップにお湯を注いでいく。全ての動作がいつも通りに行えた。 僕は居間のテーブルの上にコーヒーを置いて、口をつけずに山川を待った。 山川は勢いよくトイレのドアを開けて出てきた。 居間から山川の様子を観察する。 山川はまず、手を洗った。台所の流し台の前に立って、蛇口をひねり手を濡らして水を止めた。 その後居間に向かってくるかと僕は予想していたのだが、違う動きが見られた。 山川は首を下に曲げてじっとしたあと、しゃがんで流し台の下を見ながらぼーっとした。 そして、何故か笑った。 何が面白かったのかはわからないが、声も出さずに肩を揺らして満面の笑みを浮かべていた。 山川はしゃがんだまま、流し台の扉を背中にしてもたれかかった。 僕を見ると、左手首で手招きした。 「北河君、ちょーっと、こっち来て」 僕はおかしな山川の様子に不審を抱きながら、台所へ向かうことにした。 山川と目線の高さを同じにして、問いかける。 「なに? どうかした?」 「いやー、なに、聞きたいことがあってさ」 遊んでいるときと同じ声だった。 時々、笑い声を漏らさないようにして口を手で覆う。 「ぷくく……あのさ、北河君の好きな人って、誰?」 「誰って、それは……」 「部屋で飲んでいるときもさ、教えてくれなかったでしょ」 「別に言う必要ないだろ」 98 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 13 54 20 ID biq4Qk+P 話をそこで終わらしたかったので、立ち上がることにした。 が、山川が僕の手をいきなり引っ張ってきたので、前のめりに倒れた。 危うく衝突しそうになったところで手を流し台について、こらえる。 「こら! いきなり……」 何をするんだ、と言葉を続けようとしたのだが、山川の予想外の動きに封じられた。 山川がいきなり僕の頭を抱きかかえた。 両手で僕の頭を包み、体で受け止めている。山川の胸に僕の顔は沈んだ。 僕は全力で山川から離れようとしたのだが、加えられている力は僕の力と拮抗していて、 拳ひとつ分しか距離をとれなかった。 「は、離せ……」 「それはできないよ。正直に答えてくれるまではね」 「誰が、言う、もんか」 喋り続けながらも離れる努力をしているのだが、状況は変わらない。 「もしかして……私?」 「…………は」 「北河君の好きな人って、私なの?」 それはない、という答えが最初に浮かんだので、言おうとして口を開いた。 だが、言葉は出てこなかった。山川の目が僕の目をまっすぐに見つめていたから。 山川の目が語っていた。本当のことを言え、と。 まず、山川の問いに答えを返す。 「僕が好きな人は……山川じゃない」 自分でも驚くほど、鮮明に言葉にできた。僕が好きな人は、山川じゃない。 山川は僕の答えを聞くとふーん、と言いながら何度か軽く頷いた。 僕を睨み付けているように見えるのは、目の錯覚なのだろうか。 「それはつまり、他に好きな人がいるってことでしょ」 「まあ、そうだけど……」 「誰なのかな? 北河君の好きな女性は」 僕の頭に加えられていた力はすでに弱まっていた。 逃げようと思えば逃げられた。けれど、今度は山川の問いに動きを封じられた。 僕が好きな人は、さつき姉だ。でも、それを口にしてもいいのか? 昨日、さつき姉への想いを断とうと決めたばかりじゃないか。 「僕は……」 「あ、迷っている顔。本当は誰が好きなのか自覚しているのに、答えることを躊躇っている」 「……違う」 「答えを口にしたら辛くなるとわかっているから、口にしたくない。そうでしょ?」 「違うって、言ってるだろ」 「ガキみたいな恋愛してんじゃないよ」 99 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 13 55 45 ID biq4Qk+P 山川の顔と声が変容した。一瞬、情けなくも思考が停止した。 今まで見たことのない、厳しい目が僕を見つめている。 「まだ好きなくせに、なんでごまかそうとするの?」 「……」 「今日一日中観察してて思ったけど、自分をごまかそうとしているようにしか見えなかった。 それってさ、ただ嫌なことから逃げているだけだよね。自分の気持ちからさ」 「な……」 「何も言ってないんでしょう? 好きだとか愛しているとか。 面と向かって振られたわけでもないのに、なんで諦めるの?」 「それは……山川だって……」 山川は、一度不敵な笑みを浮かべてこう言った。 「私ね、花火大会の次の日に起きたら、すぐ電話して聞いたよ。彼氏に。 そしたらね、向こうから謝ってきた。色々あってむしゃくしゃしてたんだって言ってた。 あれは間違いだった、ごめん。って、そう言われた」 だからあの日、やけに声の調子が良かったのか。 僕が無言でいると、山川が優しい顔をして口を開く。 「もし私が諦めてたら、たぶん破局してただろうね。 諦めずにもう一度話してみたから、やりなおすことができた。 北河君も同じじゃないの? 想いが伝わるかもしれないよ。やってみる価値はある」 「…………そうかもしれない」 「そうかも、じゃなくて。やるだけの価値はあるの。私が言うんだから間違いない!」 説得力のある言葉だった。 持つべきものは友達。まさにその通りだ。 今なら、さつき姉に告白することもできそうだ。 「にひひ……すっかり乗り気になったみたいだね。 それじゃあ、言ってみなよ。私を相手だと見立てて、告白してみて」 「ちょっと待て。なんで山川にそんなことを……」 「予行練習ってやつよ。さあ、ばっちこい!」 「野球部じゃあるまいし……」 でも、冷めないうちに今の気持ちを言葉にするのもいいかもしれない。 今日は酔っているからさつき姉に電話はできないし、会うこともできない。 相手が山川というのはとても、すごく不満だけど。 「む、何か言いたそうな顔をしているね。私じゃ不満?」 「まったくもってその通り……じゃなくて、不満じゃないよ。うん」 「……いろいろ言いたいことはあるけど、今日はやめとく。 それじゃあさ、言ってみて。はっきりと、大きな声で」 大きな声では言わないけど、はっきりと口にする。 「僕が好きな人は、さつき姉だ。 今さら言っても遅いんだけど、自分の気持ちはごまかせない。 僕は、さつき姉と一緒に居たい」 100 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 13 58 26 ID biq4Qk+P 僕がそう言うと、山川は紅くなり、俯いた。 あまりにおかしかったので、僕は笑った。山川が僕を見て紅くなるなんて、初めてのことだった。 「笑わないでよ、こっちだって笑いそうなんだから」 「だってさ……その顔を見て笑わずにはいられないって」 「北河君の告白の方が面白いって。しまったな、録音しておけばよかった」 のちのちネタにできたのに、と山川は呟いた。 僕が立ち上がると、山川もふらふらしながら立ち上がった。 山川が帰るというので、僕は電話でタクシーを呼んだ。 アパートの下まで送っていこうとしたのだが、山川は1人で大丈夫、と言ってドアをくぐった。 ドアの前に立って背中を見送っていると、山川が僕の方を振り向いてこう言った。 「流し台の下、開けてみて」 山川は千鳥足で階段まで向かい、手すりに掴まりながら下へ降りた。 僕はドアを閉めて、鍵をかけてから、座り込んだ。 続いてため息をつく。もう一度、今度は肺から息を全て吐き出すつもりで嘆息する。 「何をやってんだ、僕は……」 酔った勢いとはいえ、とんでもないことをしてしまった。 よりによって山川に、さつき姉へ向けた告白の言葉を聞かせてしまうとは。 恥ずかしい。録音されていなくてもこれから酔った勢いで同じ話をされてしまうかもしれない。 ため息を吐きながらドアに向かって、頭突きをする。頭に突き刺すような痛みが走った。 めんどくさいので、電気を消して玄関で寝ることにした。 頭がぐるぐる回っていていたが、混濁の渦に意識を置いているとすぐに眠くなった。 しかし、目が覚めた。部屋の中から物音が聞こえたのだ。 ドンドン、という音は流し台の下、さっき山川が背中をつけていた場所から発せられていた。 猫でも入り込んでいたのだろうか?立ち上がって、電気をつける。 まだ音は続いていた。おそるおそる手を伸ばし、流し台の下の扉を開ける。 「……」 絶句した。ここにいるはずのない存在がいたことに。 なぜ流し台の下にいるのか、理由がまったくわからない。 さっきのやりとりを聞かれていたことは当然聞かれていたはず。無性にさけびたくなった。 しかし、その人が持っているものが包丁であることがわかって、叫ぶ気は失せた。 「さつき姉、何してんの……?」 101 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 13 59 55 ID biq4Qk+P 流し台の下にいたのは、さつき姉だった。口にハンカチをあてている。 僕が手を差し伸べると、さつき姉は手に捕まって這い出してきた。 ようやくハンカチを手から離すと、大きく深呼吸を数回して、僕に向き合った。 「早く気づいてよ! 流し台の下って臭いから息ができなくて声は出せないし! 驚かせようとして入り込んだはいいけど狭いから出てこられなくなったし!」 「いや、隠れる必要もないでしょ。……って、いつからいたの?」 「惣一が帰ってきたとき。声が聞こえてきたから、咄嗟に隠れたのよ」 「どうやって部屋に入ったの?」 「鍵、開いてたわよ」 「なるほど……」 思い出してみると、今日は部屋を出て行くときに鍵をかけなかったかもしれない。 さつき姉の着ている服は白いブラウスとジーンズだったが、上下共に黒く汚れていた。 さつき姉は右手で髪をいじって、汚れをチェックしている。 そして、左手には包丁が握られている。 「ねえ、なんで、包丁を持ってるの……?」 「え、それはもちろん山川さんを……」 「え」 「じゃなくて、暗闇に不安になったから握っちゃったのよ。防衛本能よ、防衛本能」 「あっそ……」 頭をかきながら俯いて、ため息をひとつ。まったく人騒がせな。 だいたい、なんで僕の家に来てるんだ?恋人の家にいるはずじゃないのか? 「さつき姉、恋人は?」 「恋人? ……あーあー、あれね……うふふ」 「なに、その勝ち誇ったような笑顔は」 「う、そ」 「う、そ?」 「あれね、お母さんに頼んで一芝居うってもらったの」 えっと、つまり……恋人がいるっていうのは嘘? 僕が昨日あれだけ落ち込んだのは一体なんだったんだ。 いくらなんでも悪質すぎるいたずらだろう、これは。 「さつき姉、さすがにこれは僕でも……」 「ここに引っ越すとき、惣一は何も言わずにどこか行っちゃったでしょ? その仕返し。どう? 同じことをやり返された気分は」 「……返す言葉もございません」 満足そうな笑顔でうなずくさつき姉。 僕はさつき姉の笑顔を見て、からからになっていた心が潤っていくのを自覚した。 102 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/03(日) 14 01 52 ID biq4Qk+P 「結果としては、成功だったかしら。惣一は正直になったみたいだし」 「なんのことを言って…………あ」 今度こそ、僕は凍りついた。 僕は山川との会話で、さつき姉への気持ちを口にした。 そしてさつき姉は流し台の下にいて、それを聞いていた。 頭を抱えて座り込みたい。床を突き破って一階に下りて住人に謝って逃げ出したい。 顔から火が吹きそうだ。流し台の下に隠れたい。 「私のこと、好きなんでしょ?」 知っているくせにあえて言わせようとするさつき姉。 微笑んで、僕の言葉を待っている。 恥ずかしいけど、僕は言うべきなんだろう。 「うん。僕は……さつき姉のこと…………好きだよ」 面と向かって言いたいが、首が重くて持ち上がらない。 床に向けた視界の中に、さつき姉の足が現れて、白い腕がすぐ目の前に来た。 呆然とする僕の体を、さつき姉が抱きしめた。 耳元で、さつき姉の口から小さな呟きが漏れる。 「私も、もちろん惣一のことが好き。もちろん、1人の男として」 何を言われたか、わからなかった。 だって、さつき姉が僕のことを好きだ、って、今……。 「やっぱり気づいてなかったわね。今さらだけど、ここまで鈍いとは」 「だって、さつき姉他に好きな人がいるって、昔」 「あのね……昔からずっと一緒にいるのは、惣一だけでしょ。他に居た?」 過去の記憶を全て振り返る。そして出た結論。 「居ない、ね」 「ちょっと考えればわかりそうなものだけど。あの時はっきりと言っておけばよかったわ。 でも、いいか。結果としては、上手くいったんだから」 さつき姉の腕に力が込められた。僕は、より強くさつき姉を感じられた。 上手く動かない手を動かして、ゆっくり、壊さないように抱きしめ返す。 くすぐったかったけど、離れる気にはならなかった。ずっとこうしていたい。 「そうだ、惣一。罰ゲームのことだけど」 「うん」 「罰ゲームとして、惣一には私と結婚してもらうから」 ……なんだって? 「けっ、こん?」 「そう、結婚。これでずぅっと、一緒に暮らせるわね」 嬉しさと驚き。思考が停止するかと思いきや、逆に冷静になってきた。 自分はまだ大学一年生であること、さつき姉とは離れて暮らしていること、 親御さんへ向けた挨拶の言葉、自分名義の銀行口座の残高。 それら全てを同時に考えていると、さつき姉が僕の耳元に口を寄せた。 溢れる感情を堪えきれないのか、さつき姉は涙声でこう言った。 「絶対に、離さないからね」
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69 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/01(金) 00 06 50 ID wBkMeU5t 夜の闇との区別が薄くなった歩道を、ひたすらに走る。 思考を捕らえて離さない性欲に抗うために。 自分の犯した罪の重さをごまかすために。 僕は、どこに行こうとしているのだろう。 どこに行っても、結局は逃れることなどできないのに。 衝動に任せてさつき姉の唇を奪ってしまったことは、消せないのに。 僕の記憶にしっかりと刻み込まれたさつき姉の涙と、おびえるように震えだした 体の感触は、今でも思い出せる。 そして、それを思い出すだけでまた興奮してしまう自分の下劣さに、腹がたつ。 呼吸が苦しくなってきた。足も、少しずつ動かなくなりだした。 かなりの時間全力で走ってきたから、心臓と肺が弱音を吐き出した。 何度か跳ねるようにして走り、ゆっくりスピードを落としていく。 立ち止まった場所は、自宅の近くにある公園の入り口だった。 どうやら、ぐるりと回ってアパートの近くに戻ってきてしまったようだ。 入り口近くにある自動販売機の前で立ち止まり、倒れるようにして背中で自動販売機にもたれかかる。 自動販売機の光に集まってきた小さな羽虫や楕円形の虫が体にくっついてきた。 膝の力を抜く。支えを失った体はすぐに地面に腰をつけた。 俯いて、周りを飛び回る虫を吸い込まないように深呼吸をする。 心臓の鼓動が邪魔をして、上手く息を吸うことができない。 でも、すぐに鼓動は静まってきた。 本当に、すぐだった。いっそのこと一晩中僕を苦しめてくれれば嬉しかった。 だけど、自分のあやまちを忘れるなどという安易な道は選ばせてはくれないようだ。 体が汗にまみれて、筋肉が痙攣を起こしているのに、思考だけは冷たかった。 幸いにも、性欲は頭の中からすっぱりと消えていた。 僕はさつき姉にキスをして、傷つけた。傷つけたのは体でなく、心。 僕は知らないけど、強引に唇を奪われるなど、さつき姉は経験していないかもしれない。 いや、経験していようとしていまいと同じことか。 僕がやったことは、許されることではないのだ。 両手で拳を作り、太腿を全力で叩く。右手で叩いて、左手で叩いて、右手で叩く。 何度やっても手に力は入らなかったし、足に痛みが走ることもなかった。 70 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/01(金) 00 08 41 ID wBkMeU5t 「惣一!」 地面に座って俯いていると、僕を呼ぶ声が聞こえた。 声が聞こえてきた方向は右側。目を向けると駆け寄ってくるさつき姉の姿が見えた。 自動販売機の明るさに目が慣れてしまっているから、さつき姉の顔は見えない。 僕はもう一度俯いて、さつき姉から目をそらした。 さつき姉は僕の前に立つと、しばらくしてしゃがみこんだ。 視線を、頭の皮膚で感じられる。僕はひたすら地面を見つめ続けた。 なにを言われても、覚悟はできている。罵倒でも、叱責でもなんでも。 それでさつき姉の心の傷が少しでも癒されるのならば、と最初は思っていた。 でも、それは違う。本当は、僕が癒されたかっただけだ。 さつき姉に責められることで自分の罪の意識を消したかったのだと、はっきり自覚した。 さつき姉の呼吸は穏やかで、夜の静かさの中ではよく聞こえてきた。 息を吸う音が聞こえた。さつき姉が口を開く。 「追いかけっこは、おしまい?」 さつき姉の声は、弾んでいた。 まるで迷子の子供を発見できた母親のように楽しそうに、嬉しそうにしていた。 「追いかけっこ?」 と、僕は聞き返した。 「そうでしょ? 私に背を向けて走りだすのは、惣一の役目だったじゃない。 そして、私が鬼の役。懐かしいわね、何年ぶりぐらいかしら」 「…………最後にやったのは、僕が小学校6年生だったころだよ」 「だとしたら、もう6年は経ってるのね。私は今でもはっきりと思い出せるわよ。 惣一が私から必死になって逃げ出す様子も、捕まったときの悔しそうな顔も。 でも、一度も勝ったことはなかったわね。今日もそうだったけど」 さつき姉はそこまで言うと、僕の隣に座った。 僕は、さつき姉の顔を見て話しかけることができた。 「ここ、虫がいっぱいいるよ」 「別に平気よ。どうせ走り回って汗をかいたんだからシャワーを浴びないといけないし。 でも、よく30分も走り回れたわね。やっぱり成長してるのね、惣一も」 「自分では、まだあの頃のままみたいな気がしてるけど」 「私も同じ。なんだか、体だけが大きくなっているみたい。 性格とか、考え方とか、好みとか、全部小さい頃と同じ。 小学生が大人の体を持つと、私みたいになるのかもね」 71 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/01(金) 00 12 24 ID wBkMeU5t さつき姉は立ち上がると、自動販売機にお金を入れて、一本だけジュースを買った。 ペットボトルに入れられているスポーツドリンクは透明だった。 キャップを開けると、さつき姉は半分ぐらい一気に飲んだ。 そして、僕にペットボトルを押し付けた。 「喉、渇いたでしょう? 飲んで良いわよ、それ」 「ああ、ありがと。って、それはちょっと……」 「何か問題があるの?」 「だって、これって間接――」 そこで、僕は口をつぐんだ。 急に心を締め付けられた気がした。 自分がしたことを思い出して、後悔が形になって胃を圧迫する。 僕はさつき姉から目をそらそうとした。けど、不意の笑顔に動きを止められた。 「さっきのことは気にしなくていいわよ」 「でも、僕は無理矢理――」 「ふう。わかってないわね、惣一は」 さつき姉はかぶりを振ると、右手を振り上げた。 続いて振り下ろされた右チョップが直撃して、僕の鼻から空気が漏れだした。 脳から鼻に突き抜ける痛みが、僕の思考を止める。 「私はキスされたことに怒っているんじゃなくて、いきなり逃げられたことが不満なの。 男の方からキスしてきたくせに逃げ出すって、どういう了見よ。んん?」 「う……」 「本当は、責任をとってほしいところだけど。 他ならぬ幼馴染は反省しているようだし、初犯でもあるから許してあげるわ」 僕はさつき姉の言葉を聞いて、口を閉じるのを忘れた。 あまりにあっけなさすぎる。なんで、そんな簡単に許してくれるんだ? 「馬鹿な顔してると、虫が口の中に入るわよ。 仕方ないわね。惣一に教えてあげましょうか、許してあげる理由」 「理由があるの?」 「そ。大きな理由」 「どんな理由なのさ」 「ふふ。それはねぇ……」 さつき姉は僕の顔を見つめながら、微笑んだ。 僕はつい、見とれてしまった。 じっと見つめたままでいると、さつき姉が勢いよく立ち上がった。 「やっぱり、やめた!」 「ええ?!」 「それぐらい、自分で気づきなさい。胸に手を当ててみればわかるはずよ」 言われたとおり、胸に手を当てて考えてみる。でも、思い当たるフシがない。 シャツがすっかり冷たくなっていることだけはわかったけど。 72 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/06/01(金) 00 13 44 ID wBkMeU5t アパートに帰りついて、2人が別々にシャワーに入り終わったら、すでに11時を回っていた。 電気を消して、布団を敷いて横になると、またしてもさつき姉は僕の横に潜り込んできた。 だけど、今日だけは何も言うつもりにならなかったし、疲労感から眠気がすぐに襲ってきたので 黙って眠りにつくことにした。 鼻から吸う息が心地よくて、吐く息が軽くて、すぐに眠れそうだった。 今夜は風が窓からよく入り込んできていたから、扇風機は必要なかった。 意識が闇に沈んできたころ、肩をつつく指によって起こされた。 首だけで、さつき姉の顔を見る。 「惣一。罰ゲームのことなんだけど」 「罰ゲーム?」 「今日、追いかけっこしたじゃない。昔から負けたほうが罰ゲームをする約束だったでしょ」 しまった。すっかり忘れていたけど、昔は追いかけっこをするたびに罰ゲームをやらされたんだった。 21歳になった今、さつき姉は一体どんな罰ゲームを言い渡してくるんだ? 「それね、一度家に帰ってからやってもらうから」 「家って、誰の?」 「私、明日家に帰るから。言わなかったっけ?」 「いや、聞いてないんだけど」 「そういえばそうだったわね。予定ではもっと後で追いかけっこするつもりだったし」 「何、それ?」 予定?予定っていうとさつき姉のか? 追いかけっこをする予定って、どういうつもりで立てたんだろうか。 「あ! ええ、っとね。久しぶりに会ったから、昔を懐かしむって目的でやろうと思ってたのよ」 「なんだ。それならいつでも言ってくれればよかったのに」 むしろ、これだけ自然に話せるようになれるなら自分から誘えばよかった。 僕は今、さつき姉と昔みたいに仲良くなれた気がしている。 ずっと心にわだかまっていたものがとれたように、安らかな気分だ。 「罰ゲームっていうのはね、あんまりやりすぎると意味がないのよ。 1回きりだから、無茶なことも相手に聞いてもらえるの」 「無茶なことをやらせるつもりだったの?」 「大丈夫よ。死ぬこととか、怪我したりすることじゃないし、惣一にできそうなことをしてもらうわよ。 というより、惣一にしかできないことと言ったほうがいいかしら」 なんだろう。僕にしかできないこと? 僕にしかできないことというと――何も思い当たらないな。 「楽しみにすると同時に、覚悟をしておきなさい。……それじゃあ、おやすみ」 「おやすみ、さつき姉」 さつき姉は僕に背中を向けると、無言になった。 寝息が聞こえ始めてから、僕は今日一日で起こったことを反芻した。 山川とさつき姉に起こった異変、衝動に任せてさつき姉にキスしてしまったこと、 そして、さつき姉と久しぶりに仲良く話せるようになったこと。 終わってみると、いい一日だったように思える。二度と繰り返したくは無いけれど。
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33 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/29(火) 23 33 01 ID LZH3xKXm 僕は今、意識をふわふわとうわつかせた状態で夢を見ている。 僕の見ている、あるいは見ていると錯覚している目の前には、山川がいる。 昨日着ていた浴衣ではなく、大学にいるときのように動きやすそうな服を着ていた。 髪の長さはばっさり切った状態のままで、僕にとってはまだ違和感があった。 山川は両手の指を絡めて、開いたり閉じたりという動きを繰り返し、僕の顔を 見たかと思うとすぐに目をそらす。 口が開いた瞬間目に強い力が込められたが、僕が真正面から見返すと 頬を変なかたちに緩ませて、背中を見せた。 そしてとぼとぼと歩き去る、と思わせて背筋をぴんと伸ばして振り返り、僕の 目の前に戻ってくる。 山川らしくない、というより普段の山川からは考えられない妙な動きだ。 僕は山川の一連の動きにハムスターと名づけてやりたくなった。 山川は僕に何かを伝えたがっているようだった。 どんな内容のものなのかは、ハムスター的動きを見ていればなんとなくわかる。 ここで自分に対してとぼけることもできるが、僕としては別に冗長的になる必要も ないので、はっきりと意識してみる。 山川は僕に好意を伝えようとしている。 (夢の中だが、)山川が僕に向かって告白する、というのはなんとも奇妙な図だ。 キャベツとレタスが一緒にハンガーストライキしましょう、と言い合っているような 脱力感と空虚な感じを覚える。 こんな喩えをすると山川に悪いのかもしれないが、実際思ってしまったのだから仕方ない。 僕も山川も、お互いに友人だとしか思っていないのだ。 もちろん僕は山川の本音など知らないが、夏季休暇突入前に彼氏と遊びに行く計画を 熱心に立てていた様子を思い出すと、色気のある展開の予兆すら浮かばない。 昨晩の行動にしても、僕を含む友人グループにとっては当たり前のことなのだ。 山川の動きが止まった。今度はじっと僕の目を見つめている。 唇が動いて、意味のある言葉を発しようとする。 自分の見ている夢の馬鹿さ加減に呆れ、ふと山川の後ろを見た瞬間、変なものが飛び込んできた。 さつき姉が白い着物を着て、右手にジョッキを持って、左手にビールのビンを持って、 額に白いハチマキを巻いて立っていた。 ハチマキと額の間には栓抜きが2つ挟まっている。 ちっとも怖くないし、なぜ変な格好をしているのかも分からなかったし、どうしてそこまで 不気味な表情――目の下にくまを張り付かせて俯き上目遣い――をしているのかも分からない。 さつき姉の格好の不気味さと、山川の不可解な行動の理由について考えているうちに、 僕の目が覚めた。 すでに部屋の中は昼間の明るさになっていた。窓の外には青空と雲が点在している。 時計を見ると時刻は10時を過ぎていた。 口の中に残るべとべとしたものを洗い流すために、洗面所へうがいをしにいくことにした。 34 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/29(火) 23 34 09 ID LZH3xKXm 僕がいつものように朝の身だしなみを整えていると、さつき姉がやってきた。 昔から変わらない朝の合図であるかのように、目を閉じていてふらふら歩いていた。 僕は仕方なくさつき姉の分のパンを焼くためにキッチンへ向かった。 しかし、パンは無かった。 冷蔵庫の中にも、上にも、もちろん下にも無かった。 おかしい。昨日の朝部屋を出るときは一斤まるごと残っていたはず。 となると、僕が出かけているうちに無くなったことになる。 昨日僕の部屋にいたのは1人しかいない。 「さつき姉、もしかして食パン、食べた?」 「あー、うー……うん、全部食べた」 やはり予想していた通りだった。 仕方なく他のものを食べようと冷蔵庫をあさってみたが、あるものと言えばウーロン茶と オレンジジュースと、さつき姉が買ってきたビールだけだった。 今の僕は飲み物だけで空腹を埋められる気分じゃなかった。 さつき姉が洗面所で顔を洗っているうちに、台所と居間を仕切る引き戸を締めた。 昨日飲んだビールの匂いがするシャツとジーンズを脱ぎ、黒いシャツと白い綿パンを着た。 ポケットに薄い財布を突っ込み、引き戸を開け放つとさつき姉と顔を合わせた。 寝ぼけ眼のさつき姉が口を開く。 「なに? いきなり目の前に現れて、どういうつもり?」 「さつき姉、寝てるでしょ」 「ああ、うん。分かってるって、ちゃんとお部屋のお掃除しますから」 会話が成立しない。やはり眠っているようだ。 さつき姉はテーブルに向かって歩くと、部屋に散らばったままの空になったビール缶を 一箇所に集め、お菓子の袋をゴミ箱に突っ込んだ。 続けて床の掃除をしてくれたら嬉しかったのだが、さつき姉は空いたスペースに横になった。 先ほどの行動は、寝床を確保するためのものだったらしい。 僕は肩を落として鼻から息を吐き出した。 「さつき姉、何か食べたいものある?」 「うーん、惣一を食べたいな」 「……わかった。適当なものを買ってくるよ」 「うん、って、ストーーップ!」 さつき姉が急に起き上がり、僕に向かって歩いてきた。 なぜか知らないが、目ははっきりと見開かれ、眼力がみなぎっている。 「1人では、行かせないわ」 「じゃあ、さつき姉も一緒に行く?」 「いや。眠いから」 「じゃあ僕が1人で――」 というやりとりをしているとき、玄関をノックする音が聞こえた。 35 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/29(火) 23 35 52 ID LZH3xKXm 「ごめんくださーい。北河君、居るー?」 目の前にいるさつき姉の顔を見ながら、はてこれは誰の声だろう、と僕は思った。 聞いた限りでは女性らしき声だったが、今日は誰とも会う約束をしていない。 「私ー。友達の山川があなたのうちにやってきましたよー」 その声を聞いてから、玄関に目をやる。 「山川か。ちょっと待っててくれ」 「はーい。外は暑いから、脱水症状にならないうちによろしくね」 山川の声の調子は、昨日よりもいいようだった。 今年の4月に、山川が彼氏ができたという自慢話をしているときと比較しても遜色の ない弾み具合だった。 迷惑なことかもしれないが、山川にとってつい先日まで好きだった男性への想い を完全に断ち切ってしまうというのはいいことなのだろうか、と思う。 もしかしたら、もう一度会って話をすればやりなおすことも可能だったんじゃないだろうか。 山川がどれほど彼氏に対して入れ込んでいたか、僕は知っている。 それはもう、弓道の達人が放った矢のように一直線に、到達地点を男性に設定 したら確実に射止めてしまうだろう、というほどのものだった。 否、一直線だったからこそ少しの風が吹いただけで見当はずれの方角へ飛んで いってしまったのか。 だけど、(冷たいかもしれないが)僕が口を出すべきことではないのだろう。 僕が失恋した友人にすべきことはせいぜいヤケ酒に付き合ったり花火大会へ一緒に 行ったりするぐらいのもので、考えを改めさせることではない。 山川が彼氏とやりなおしたいと考えるならば、僕は視線で背中を押すべきだ。 僕が山川の立場になったとしても、そうしてもらったほうが嬉しい。 僕が玄関の前に立ち、鍵を開けようとしたら、さつき姉が隣に来た。 さつき姉の柔らかな右腕が、僕の左腕に絡んできた。 腕に汗はかいていなかった。 僕が視線で行動の意味を問い続けても、さつき姉の表情は応えない。 そして、さつき姉が玄関の鍵を解き、ドアを開けた。 玄関の向こうに立っていたのは、当然のように山川だった。 黄色のTシャツを着て、少し短めのデニムパンツを履いていた。 山川は僕に向かって白い紙製の箱を渡してきた。 「これは?」 「昨日のお礼。一日中付き合ってくれたんだから、ケーキぐらいは、と思って。 私としては、朝まで付き合ってもらっても一向に構わなかったんだけどね」 と言って、元気な顔で笑った。 山川はさつき姉を見ると、きょとんとした顔をつくった。 「あれ? 彼女できてたの? ごめんなさい、昨日北河君を独占しちゃって」 「いいえ、気にしなくてもいいのよ。……私も、昨日は花火大会の『現場』にいたんだから」 どことなくアクセントのおかしい喋り方だった。 さつき姉はご機嫌なようで、にこにこと笑っていた。 36 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/29(火) 23 37 15 ID LZH3xKXm 山川が持ってきたケーキは、どうやら無差別に選んできたものらしく全て違っていた。 いくら僕が甘いもの好きとはいえ6個もいらない、と言うと、 「半分は私が食べるつもりだったから」 と山川が答えた。 さつき姉は僕と山川をテーブルの前に座らせると、ケーキとジュースを持ってくる、 と言って台所へ向かい、引き戸をしめた。 僕が山川と何の話題も出せずにいると、さつき姉がジュースを持ってきた。 「山川さん、でしたっけ。オレンジとウーロン茶はどっちが好き?」 「えーっと、ウーロン茶で」 「そう。まあ、私としてはそれでも構わないけど……」 「え? 何か言いました?」 「いいえ。なんでもないわ」 さつき姉はウーロン茶を山川の前に置き、僕の前にオレンジジュースを置き、 自分が座る場所にもオレンジジュースを置いた。 透明なコップに注がれたオレンジ色の液体の中には氷が入っていて、水面に 透明なへこみを作り出していた。 コップにくっつき始めた水滴を見ていると、山川が僕の耳に口を寄せてきた。 「あの人、さつきさんだっけ。綺麗な人だけど、恋人?」 「高校まで近所に住んでいた友達だよ」 「幼馴染、ってやつね。ふふ、なんだか恋愛アドベンチャーゲームみたい」 断言してもいいが、さつき姉と甘い雰囲気になったことは一度もない。 僕は変な顔をしていたのだろうか。山川がじとりとした目で見つめてきた。 「北河君はわかっていないね。女の子の行動ってやつを」 「どういう意味だよ、それ」 「ふむ。……例えばだよ。誤解しないでね、くれぐれも」 「分かってるって」 「恋人と過ごしている甘い時間に突然のノックの音が飛び込んでくる。 誰だろう、と思って扉を開けると知らない女だった。 知らない女の癖に恋人とは仲良く話している。こいつは目障りだ、邪魔者だ」 「最後、いきなり怨念がこもったね」 「一服盛ってやろう、それっ」 山川はウーロン茶の上に鳥のくちばしのようにした指を持ってくると、パッと開いた。 「ウーロン茶を飲んだ女は倒れました。邪魔者は消えました。さあ続きをしましょう」 「……さつき姉がそんなことするはずないだろ」 一応、非難をこめたまなざしを山川に向ける。 山川は両手を上に向けながら首を振った。 「たとえ話だって。ほら、こんなふうに」 と言うと、ウーロン茶の入ったコップを口に運んで、3分の1くらい飲んだ。 「……ね、なんともないでしょ」 「当たり前だろ」 僕は特に何も思わず、そう言った。 37 :向日葵になったら ◆KaE2HRhLms [sage] :2007/05/29(火) 23 39 17 ID LZH3xKXm 「面白くないなあ、北河君は」 「悪かったね」 「ちなみ、もし私だったら恋人の飲み物には睡眠薬を入れるね。自由を奪うために。 そして、邪魔者の女には笑いが止まらなくなって腹がよじれる薬を入れる」 笑いが止まらなくなる薬があるのなら、僕が欲しい。 笑えないバラエティー番組を、笑いながら見ることができるようになるから。 「そうだ、こうしてみようか」 山川は僕の前に置かれたオレンジジュースと、さつき姉の席に置かれたオレンジジュースを 入れ替えた。水滴の跡が残らないように、コップを浮かせて移動させていた。 「もしかしたら、これでさつきさんがいきなり眠っちゃうかもね」 僕は山川の冗談のくだらなさに呆れつつ、嘆息した。 結果から言うと、山川の言うとおりだったということになる。 さつき姉が僕らの前にケーキを置いて、ケーキを食べながらオレンジジュースを飲み、3人で 話をしていると船をこぎ始めた。 さつき姉はテーブルの上に肘をつくと俯いて、時々肘をテーブルからずり落とした。 何か言おうとしたのだろう。素早く顔を上げると口を開いたが、意味のある言葉を発する前に スローモーションで後ろに倒れた。 さつき姉のすぐ後ろには白い壁があり、当然後頭部を打ち付けた。 拳骨を食らわしたときとそっくりの音がしたが、さつき姉はすーすー、と寝息を立て始めた。 ちなみに、山川はさつき姉が眠りに落ちた時に口を開いたのだが、 「あらははは、やっやぱぱりあらららいのいうおおいいあっあええ」 と聞こえる、ろれつの回っていない声を出した。 笑っているようではなかったが、フォークを持つ手が小刻みに震えだした様子からすると、 体が痺れて動かなくなっているようだった。 僕は自分の体に何の異常も起こっていないことを確認すると、山川を背負って部屋を出た。 山川の体は細いが、痙攣しつつ脱力している体はおんぶしている僕の腕と肩を圧迫した。 歩くうちに僕の汗が顔に浮かび、山川の汗が背中に貼り付いてきたので途中からタクシーに 乗って、山川の住むアパートに向かった。 山川は自室に到着したときには体の異常から回復しつつあった。 それでも、立ち上がろうとしてしりもちをついたり笑顔を作ろうとして頬を強引に吊り上げ たりしているので、まだまだ痺れが残っているようだった。 部屋から去ろうとする間際、山川にこう言われた。 「……気をつけてね。本気で危機感を持ったほうがいいよ」 僕はその言葉を聞いてから合鍵で鍵をかけ、新聞の投函口から合鍵を部屋に入れた。 せみの鳴き声と、髪を焼く日光の中を歩きながら考える。 さつき姉は、僕を眠らせて山川の体の自由を奪って、どうしようとしていたのか。 汗がうっとおしくて想像力は働かなかったけど、悪寒だけは沸いてきた。
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1 :就職戦線異状名無しさん:2008/06/11(水) 00 10 34 20XX年。現在社会人三年目の僕は、今日もスーツを着て車のハンドルを握る。 ドラえもんが未来に帰ってもう10年が過ぎようとしているが、相変わらず車は地上を走っている。タイムマシンや不思議な道具はもちろん、知能を持ったネコ型ロボットが 発明される予兆などはまるで感じられない。 中学で人並の努力を覚え、無事中堅高校に進学した僕を見て、彼は自分の役務が完遂した事をさとったらしい。主人であるセワシのもとへと帰っていった。 3 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 12 48 その後の僕は高校でもそれなりの成績をキープし、推薦で私立大学に進学。卒業後は業界では大手と呼ばれる製薬会社に入社した。僕の仕事は薬の営業、いわゆるMRだ。 MRとは営業要素よりも医者の機嫌取り要素が強い仕事で、ストレスや自分のプライドと戦わなければならない大変な仕事である。 が、僕自身にはどうも「高慢な人間に気に入られる素質」があるらしく、そこそこの評価と世間的には「高給」と言われる額の給与をもらいながら毎日頑張っている。 このぶんならセワシのお年玉が50円になるなんて事はないだろう。ドラえもんの当初の目的は達成されたといえよう。 ドラえもんが変えた未来とやらが、少しずつ現実に近づいているのだなとあらためて感じた。 4 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 14 28 そう、「しずかちゃんと結婚する」という部分以外は。 小学校時代の仲間とはそれなりに連絡をとりあい、卒業後も仲のよい友達関係を続けてきた。 ジャイアンは同じ公立中学を卒業した後、商業高校に進学。卒業後は家業の剛田商店を継ぎ、若旦那として仕事をしている。 スネオは小学校卒業と同時に私立中学に進学し、そのまま大学までエスカレーター進学。 大学は僕が推薦で入学した所と同じ大学だったので、在学中は同じサークルに参加したりと一緒にいる事が多かった。 現在は父親のコネで某広告代理店に入社し、仕事はそこそこにコンパでブイブイいわせているとの噂だ。 しかし、しずかちゃんだけは中学で女子高に進学して以来、一度も連絡もとっていなければ姿も見ていない。 もちろん今どこで何をしているのかなど、知るわけもない。 5 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 15 05 ドラえもんが描いた未来通りになるのなら、僕らはどんなロマンチックな再会を果たすのだろうという期待。 もう一方で「未来は簡単に変わる。もしかしたらしずかちゃんと結婚するという未来はかわってしまったのかもしれない」という不安。 毎日のように考えていたそんな事も、最近は仕事の忙しさから忘れがちになっていった。 9 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 18 34 僕の起床時間は毎朝5時半。買い置きしてある菓子パンとコーヒー牛乳をほおばり、「社員寮」というのは名ばかりの、会社に借り上げられた綺麗なマンションをあとにする。 朝一で卸や特約店との打ち合わせを終了させ、昼前から市内の大病院に向かう。 上司の話では、「今日面会予定の医師はかなり有望な若手医師で、その医師の信頼を得られるかどうかが今後その病院内でのわが社の立場の鍵になる」との事らしい。 医局の前で一時間待った後、「この仕事は失敗できない。」と自分に言い聞かせドアをあけた。 10 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 21 44 「野・・・比・・・くん?」 端正で凛々しい顔立ち、自信に満ちた瞳、胸につけられたバッチの「出来杉英才」という文字を読む前に、僕は彼が誰であるのかを理解した。 のび「出来杉くん!?君、医者になっていたのかい?」 出来「野比くんこそMRになっていたんだね。昔の友人とこんな所で再会するなんて思ってもいなかったよ!一緒に医療に貢献できるなんて嬉しいな」 懐かしさにひたる時間もほどほどに、僕は自社の新薬の説明を開始した。真剣に聞く出来杉。 「(出来杉のやつ、そんな優秀な医者になっていたのか)」 12 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 22 54 仕事の話を終え医局を出る間際、出来杉が僕に声をかけた。 出来「それにしても本当に再会できて嬉しいよ。今度一度お酒でも飲みながら話さないか。」 のび「ああもちろんさ!たっぷり接待させていただくよ!」 その週末、僕と出来杉は街の外れの繁華街にあるバーで酒を飲んだ。 日頃は飲めないような高い酒とその肴にたくさんの思い出話。これが会社の経費から出てしまうなんて、何だか罪悪感を感じてしまう。 3時間ほど飲んで店を出ようという空気になった時、不意に出来杉が口をひらいた。 14 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 25 30 出来「野比君、よければもう一件寄っていかないかい?といってももう酒は充分だがね」 のび「え?お酒を飲まないなら一体どこへいくんだい?」 出来「おいおいおいwwwwwwwそんなもん風俗にきまってまんがな~ムヒョヒョヒョヒョおおおぉぉぉ」 酔いと少しの好奇心から、僕は風俗へ足を運ぶ事を承諾した。出来杉の豹変ぶりに少しばかり狼狽しながらも。 二人は「ペロペロ倶楽部」という名のヘルスの中へと足を踏み入れた。 出来「おいおいどうしたんだいのび太っち~緊張してるじゃないか!!もしやどどど童貞なのかい!??そうなのかい!?どっちなんだい!!!!どっち!!!」 16 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 27 35 きんに君の真似がウゼぇ。 というか僕は別に童貞じゃない。一応経験人数は二人だ。 童貞は高校生の時に当時中学生のジャイ子に誘われるがままに捨てたし、 今の会社の研修時にも一度酒の勢いで同期の女の子とトイレでヤッた事はある。 出来「あああもうチンコビンビンだよはぁはぁはぁ。じゃあのび太っち、また後でね!」 こんな奴が医療界の将来を担っていると考えると少し悲しくもなる。とか考えながら、それぞれ別の部屋へと入っていった。 そう、この後知る事になる悲しい事実などほんの少しも予想しないまま。 17 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 29 50 「あけみで~す、どうぞよろしくおねがいしま~す」 そう言って現れた女性は、まぎれもなく僕の初恋の人だった。 のび「しずか・・・・・ちゃん?」 しずか「・・・・・・・」 のび「しずかちゃん!どうしてこんなところで!」 しずか「・・・・・・・人違いよ」 のび「そんなわけがない!僕が君を見間違うわけが・・・うっ!」 言い終わる前に彼女はぼくのズボンを下ろし、ペニスにかぶりついた。 のび「違う!僕はこんな事を望んでいるんじゃない!」 と言いながらも僕の意に反してペニスは硬くなっていく。 無言で凄い勢いでペニスをしゃぶり続ける憧れの初恋の女の子。 一分もたたないうちに、彼女の口の中に大量の精液を放出してしまった。 のび「はぁはぁはぁ・・・・」 しず「のび太さん・・・もうここには来ないで。私はもうあなたの知っている源静香じゃないの。」 のび「そんな!僕h しず「帰ってって言ってるの!今すぐ帰って!!!」 ものすごい剣幕と勢いに押され、僕は言われるがまま部屋の外へと出てしまった。 19 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 30 25 あれから一週間。どうしても仕事に集中できない日々が続いた。 一生懸命医薬品のこと、患者のこと、思考を仕事にシフトしようとしてもしずかちゃんの事が頭から離れない。 なぜあんなところであんな仕事を。 今日は出来杉の病院を訪ねる日だ。彼に相談する事にしよう。 20 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 32 42 僕は出来杉に全てを話した。 出来「な、なんてこったい・・・あああのしししししずかちゃんがふふふ風俗嬢だなんて・・・。はぁはぁはぁはぁはぁはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 出来杉は突如ズボンを下ろし、自分のペニスを高速でしごき始めた。 のび「というわけなんだ・・・僕はしずかちゃんと話をして、もし何か困っているなら力になりたいと考えている。どうすれば・・・」 出来「はぁはぁはぁはぁああああああああああっーーーーー!」 だめだこいつ、早くなんとかしないと。 21 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 34 23 さらに一週間後。僕は再び出来杉の病院を訪れた。出来杉はやけに上機嫌だった。 出来「やあ野比君。君が来るのを心待ちにしていたよ!」 のび「どうしたんだい、今日はやけに機嫌がいいじゃないか。」 出来「実は一昨日例のぺろぺろ倶楽部に行ってさ。しずかちゃんを指名したんだ。」 のび「な、なんだってーーーー!?」 出来「君が風俗嬢をやっている事を皆にバラすって脅したらなんと本番ヤり放題!!!3回も中出ししちゃったぜうひゃひゃひゃひゃ~~~!」 のび「・・・・・」 出来「大丈夫大丈夫!君に聞いたなんて事は言ってないからさ安心しなよひぁっひぁっひぁっ!!」 22 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 36 06 この職について3年。色んな医師に色んな理不尽な仕打ちも受けたし、 罵倒や侮辱もうけた。しかし、その時とは比べ物にならないくらいの殺意が僕の中に芽生えた。 拳をかたく握る。 しかし今の僕は野比のび太ではなく、大手製薬会社○○の代表としてこの病院にきている。 こんなダメ人間な僕を採用し評価し続けてくれた会社に対して、その恩をあだで返すわけにはいかない。 僕は無言で医局を出ようとした。 出来「そうそう、君の会社の新薬、使わせてもらう事にするよ。 今後の医療に欠かせない素晴らしい薬だと思う。それに君のおかげで初恋の女の子とセックス出来るなんて素晴らしい思いをする事ができたんだ。 この恩を忘れやしないよ。うちの病院の他の課の先生にも、君の会社の薬を採用するように働きかけておくよ。」 24 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 38 32 出来杉の働きかけのおかげだろうか。僕の営業成績は現在エリア内でトップらしい。 上司の話では、今年のボーナスは去年とは比べ物にならない額が出るから楽しみにしていろ、との事だ。 もちろん嬉しい。こんなに嬉しい事はない。が、僕の心は未だ晴れないままであった。 午後10時、今日の仕事を終え帰宅した僕は、携帯を手にある友人へ電話をかけた。 のび「もしもし、久しぶりだね。まだ起きてるかい?」 スネ夫「ああ起きてるぜ!今日はコンパもないからね。」 のび「少し相談したい事があるんだけど・・・」 スネ「おうなんでも話せよ!もしよかったらザギンあたりでシーメーしながら話さねぇ?もちろん奢るぜ!何せ俺の月給は50万だからな!!」 のび「いや、明日は早いし今から東京へ行くのは不可能だからやめておくよ」 そして僕は全てを話した。 25 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 40 03 スネ「これは人づてに聞いた話なんだけど・・・」 スネ「しずかちゃんは高校を卒業してから家出をしたらしい。 のび「家出だって!?」 スネ「高校までは優等生だったんだけどさ…音大の受験に失敗したらしいんだ。 バイオリニストになるのが夢で音大を目指してたらしいけどほら、しずかちゃんの残念な音楽センスはお前も知ってるだろ?」 のび「ああ」 スネ「自暴自棄になって夜遊びをするようになって、親からもほぼ勘当状態だったらしくてさ。受験失敗から一年も経たないうちに家に帰らなくなって、 それ以降ずっと行方がわかっていなかったらしい。」 のび「そうだったのか・・・それで風俗で・・・」 スネ「ところでのび太。」 のび「?」 スネ「しずかちゃんの働いている店と源氏名を教えてくれ!!ちょっくら抜いてもらう事にするよ。」 僕は無言で電話を切った。 26 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 41 40 スネ夫との電話から2週間。僕は未だしずかちゃんのもとに足を運べないでいた。 何度か店の前までは行ったものの、勇気が出ずその一歩を踏み出せずにいた。 自己嫌悪に陥る最中、僕の足はある場所へ向かった。 剛田商店。 古ぼけた看板の店先では、大柄で優しい顔をした男が店番をしていた。 その男に、かつての粗暴だった面影はない。今や近所で評判の剛田商店の若旦那、ジャイアンだ。 ジャイ「おう!のび太じゃないか!珍しいな。どうした?」 のび「実は相談があるんだ。」 ジャイ「あと15分で閉店だ。少しあがって待っていてくれ。」 28 :1 ◆Lrb7aHG4Ls :2008/06/11(水) 00 43 45 仕事を終えたジャイアンに僕は全てを打ち明け相談をした。 しずかちゃんの事。本当は彼女をむかえに行きたいという事。その勇気がないという事。 そして高校生の頃、ジャイ子とセックスをしてしまったという事実もついでに打ち明けた。 ジャイ「そうだったのか・・・。相変わらずハッキリしない野郎だが、お前の熱意はわかった。 お前に勇気がないというのなら、俺が背中を押してやる。」 のび「ジャイアン・・・」 ジャイ「だが、ジャイ子をもてあそんだぶんの責任はとってもらうからな。」 のび「じゃ、ジャイアン!?」 ジャイ「服を脱いで四つんばいになれ。」 のび「アッーーーーーーーーー!!!!!!!」